東洋思想に学ぶ

「なぜ今、世界のビジネスリーダーは東洋思想を学ぶのか」

2018年10月31日

今、時代は大きな転換期を迎えています。

情報のやり取りはほとんどがインターネットを介して行われるようになり、その量は激増、スピードは圧倒的に速くなりました。そして誰もが、どんな情報にも瞬時にアクセスできるようになりました。加えて、今日では発信者と受信者という境界線はなくなり、今や誰もが発信者となり「有名・無名」「個人・組織」の区別なく、あらゆる情報が自由に発信され、それを誰もがキャッチできます。

ビジネス環境にも、大きな変化が起こっています。もっとも顕著なのが、高度経済成長期が終わり、前時代的なビジネスモデルやノウハウがことごとく通用しなくなっているという点です。

かつては「モノが売れる時代」でした。マーケットは日々拡大していたので、とにかく「早く」「多く」「安く」商品を提供する。それがもっとも重要かつ有効なビジネス戦略でした。しかし、そんな時代はもう終わりです。

現代では、まったく異なるビジネス戦略やビジネスマインドが求められます。

経済成長がストップしたというのも大きな要因の一つですし、そもそも「モノがなかった時代」に「モノが売れる」のは当然の話で、「モノがある時代」に突入すれば、相対的に売れなくなるのは必然です。もっと言うなら、今は「人々が何を欲しているか、わからない時代」なのです。

求められる「新しい価値の創造」

そんな時代に求められるのが「新しい価値の創造」であり「イノベーション」です。携帯電話をすでに持っている人たちに「スマートフォン」というまったく新しい「価値」を提供することで、マーケットのあり方はもちろん、社会構造までがらりと塗り変えてしまう。そんな「新しい価値創造」が求められる時代なのです。

最近よく聞くフィンテックというのも「新しい価値創造」の一つです。仮想通貨が登場し、決済システムが根底から変わることで、私たちにとっての「お金」という概念は決定的に変わってしまうかもしれません。

お金を発行するのは誰か。お金の信用は誰が担保するのか。お金の役割とは何か。お金の形状とはどういうものか。そんな「お金」の根本概念が今、ガラリと変わろうとしています。

さらに「人の感覚や価値観」も大きな転換期を迎えています。

戦後の高度成長期を生きてきた多くの日本人は、ある意味で「共通の豊かさ」を目指してきました。いい学校に入り、いい会社に就職する。すると、生活は安定し、いろいろと豊かなもの、便利なものが手に入る。それは自動車であったり、マィホームであったり、豪華な家具や家電製品であったりします。そんな「共通の豊かさ」を誰もが、疑問を持つことなく追い求めてきました。しかし、その時代も終わりを告げました。

一つには右肩上がりの経済成長がストップし、どんなに大きな企業、有名な会社に就職しても「将来的に安泰」「一生が保証される」なんてことはなくなったからです。そしてもう一つは「モノのない時代」から「モノのある時代」になったことで、この先「何をもって豊かとするのか」がわからなくなってしまったという点です。もはや「共通モデル」では「豊かさ」を描ききれなくなったのです。

成長や安定への神話が揺らぎ、一人一人が「自分なりの豊かさ」「自分にとってのワクワク感」を創出しなければならない時代がやってきました。「会社や社会に与えられる人生ではなく、自分の人生を生きる」時代が到来したと言えるのかもしれません。そんなふうに人々の価値観が変われば、職場でのマネジメントスタイルも変えなければなりません。雇用形態は多様化し、かつては通用していた「これをやれば給料が上がる」「この目標を達成すれば出世できる」というマネジメントはほとんど意味をなさなくなりました。「人と人との関係」「人と組織との関係」も抜本的に変わってきたのです。

今起こる「パラダイムシフト」

今世の中で起こっている変化を「七つのパラダイムシフト」として考えています。

  1. 『機械的数字論』から『人間的生命論』へ
  2. 『結果主義』から『プロセス主義』へ
  3. 『技術・能力偏重』から『人間性重視』へ
  4. 『見える世界、データ主義』から『見えない世界、直感主義』へ
  5. 『外側志向』から『内側志向』へ
  6. 『細分化・専門化型アプローチ』から『包括的アプローチ』へ
  7. 『自他分離・主客分離』から『自他非分離・主客非分離』へ

この七つのパラダィムシフトを知れば、少なくとも今という時代の「どの部分が、どのように変化しているのか」を理解することができるはずです。

そしてもう一つ、重要なのが「西洋と東洋の知の融合」です。

じつはこれまで私たちが生きてきた時代、社会というのは、原則として「近代西洋思想」をベースとして形作られています。私たちのライフスタイルはもちろん、働き方も、会社のあり方も、法律、政治、経済の様式まで、あらゆるものが近代西洋思想、近代西洋文明に則って作られてきました。

今の社会や経済のあり方は私たちにとって当たり前ですが、そんなパラダイムが古今東西ずっと続いてきたわけではなく、実際には150年から200年ほど前に、中世ヨーロッパ社会が終焉を迎え、産業革命を経て、近代が始まりました。そんな近代西洋文明をベースとしたパラダイムが、今現在、広く世界を覆っています。

しかし今、時代は再び大きな転換期を迎えて、近代西洋文明をベースとしたパラダイムが、あちらこちらで破綻し始めています。これまで全地球規模で世界をリードしてきた近代西洋文明をベースとしたパラダイムが揺らぎ始めた今日、揺り戻しのように世界中で見直されているのが東洋思想です。

世界のトップリーダーたちが学ぶ「東洋思想」

世の中で「近代西洋思想的な発想」から「東洋思想的な発想」へとさまざまな側面で転換が起こっています。行きすぎた資本主義が格差社会を増長し、世界中で問題になっているのもその一つの表れです。物質的充足より、心の充足を求める人が増え、その延長でマインドフルネスや禅仏教が世界的に流行しているのもその一つ。あるいは「所有よりもシェア」という意識が広がり、シェアビジネスが増えているのも、東洋思想的アプローチの一側面と捉えられます。

もちろん近代西洋文明のすべてが悪いというわけではなく、あくまでも「西洋と東洋の知の融合」が求められ、そうした動きが世界中で起こっているということです。

私の言う東洋思想とは「儒教、仏教、道教、禅仏教、神道」の五つの思想を指しています。日本に八世紀以上存在し、精神性や風土に根づき、息づくことで、私たち日本人の暮らしの源泉となっている「知的資源」と呼べるものです。これら東洋思想に共通する特性を、近代西洋思想と対比すると、両者がいかに「相補い合う関係」にあるのかがはっきりと見えてきます。

西洋は「外側にある(すなわち、誰もが見ることができる)真理に迫っていく」という真理探究方式を採り、「誰でも理解できること」「普遍性」を重視します。一方、東洋では「自分の中にある仏性、神的性に迫っていく」という真理探究の方式を採ります。

西洋...外側にある対象に向かう
東洋...内側にある対象に向かう

このようにまさに正反対だからこと相補(complement)の関係に成り得るのです。

一八〇年前の幕末の思想家佐久間象山は「東洋道徳、西洋芸(技術)」という言葉で、両者の特性の違いを見事に表現しました。「東洋は『精神』領域に長けているので、そこに資する知見を提供すべきであり、西洋は『技術』において一日の長がある」。「両者の得意分野を融合して使うべき」と言っているのです。まさに「西洋と東洋の知の融合」です。

実際今、シリコンバレーを始め多くの世界のトップリーダーたちは、こぞって東洋思想を学び始めています。ひと昔前なら、近代西洋思想をベースとしたマネジメント論、経営論、金融工学、マーケティング論などをMBAで学んでいたはずの人たちが、今や新しい学びを求めて東洋思想に強い関心を抱いているのです。

時代を読み解く切り口として、あるいは新しいビジネス発想を持ち得るための思考の源泉として、トップリーダーたちは東洋思想を学んでいます。世の中のトレンドや価値観はどこに向かっているのか。「思考の源泉」はどこにあるのか。そのヒントを東洋思想に求めているのです。

田口 佳史著 文響社
「はじめに」より(要約)

『なぜ今、世界のビジネスリーダーは東洋思想を学ぶのか 史上最高のビジネス教養「老子」「論語」「禅」で激変する時代を生き残れ』田口佳史(著)文響社

『なぜ今、世界のビジネスリーダーは東洋思想を学ぶのか 史上最高のビジネス教養「老子」「論語」「禅」で激変する時代を生き残れ』

今、シリコンバレーを始め多くの世界のトップリーダーたちが東洋思想を学び始めるなど、ビジネスの「近代西洋思想的な発想」から「東洋思想的な発想」へとさまざまな側面で転換が起こっています。激変する時代を生き残るために必要なシフトチェンジとは何か、本書で解き明かします。

田口佳史(著)
文響社